【国東半島峯道ロングトレイル】神と仏と鬼の道

こんにちは、BAMBOOSHOOTSスタッフの坂本です。

今回は大分県の「国東半島峯道ロングトレイル」を歩いてきました。六郷満山(ろくごうまんざん)と呼ばれる宗教世界を展開する国東において、僧侶たちが10年に一度歩く最大の修行「峯入行」。その行をベースに整備された135kmの道が峯道ロングトレイルです。

トレイルのコースマップはこちらからダウンロードしていくことに。全10区間に分かれていて、セクションハイクで数回に分けて歩くのも楽しそう。私は2月後半に峯道+αをスルーハイクしたい目的があり、4泊5日で170km歩く計画を立てました。その理由は後述します。ここ国東半島は神仏習合発祥の地。8世紀、鎮護国家を掲げ仏教を推し進めた聖武天皇による最大の事業、大仏建立。その際に宇佐八幡神が大仏建立に協力する託宣をくだし、奈良に勧請され東大寺の守護神となった。一方で宇佐神宮ではいち早く神宮寺が建てられ、神と仏が渾然一体となる契機となります。やがて本地垂迹説(仏が衆生救済の為に神という仮の姿で現れた)が日本中に広まり、神仏集合を決定的なものにしました。6世紀の仏教公伝以来、ここ国東では渡来系一族によって早くから神仏習合が始まり、八幡神の化身とされる仁聞(にんもん)菩薩によって法華経の巻数と同じ28ヶ寺が創建された。原始的山岳信仰を基層に、時代が下るごとに天台密教や修験道が混じり合い、六郷満山独自の宗教文化が開花します。

そんな国東には、独自性の高い石造物や磨崖仏が数多く点在し、それらを巡ることも今回のトレイルの目的の一つ。前述の通り宇佐と国東は切っても切れない関係。峯道ロングトレイルを歩くのにあたり、トレイル起点の熊野磨崖仏ではなく、六郷満山霊場一番札所の宇佐神宮から歩くことにしました。実際の峯入行においても宇佐神宮での読経から始まります。

宇佐神宮は大分空港から出ているバスで直接行くことができアクセスが良い、東京から朝の飛行機で大分へ向かえばお昼前には宇佐に着きます。初日は宇佐神宮から御許山に登って熊野磨崖仏を目指して歩き始めました、概ね25kmの行程。宇佐神宮摂社の大尾神社から登山道を登り始め、程なくして御許山に出る。全国に8万社ある神社の内4万社が八幡神社、その総本宮の宇佐神宮奥之院が御許山に鎮座する大元神社で、神域である山頂は禁足地となっています。拝殿の奥には八幡神が降臨したとされる巨石があり、古代の祭祀形態である磐座信仰を垣間みることができる。

禁足地の山頂を迂回しながら隣の雲ヶ岳へ、杵築市の最高峰である雲ヶ岳は展望ポイントからの眺めが素晴らしい。山頂から白山神社へ下山して、暫く舗装路を歩くと峯道ロングトレイル起点の熊野磨崖仏に着きます。国東半島には100ヶ所以上の窟があると言われていて、トレイルを歩いていると何度も窟内の御仏を拝むことができます。窟は自然にできたものもあれば人工的に掘られたものもあり、磨崖仏や石造物が多いことからも分かるように、この辺りの岩質は柔らかくて加工しやすいのだとか。河原の巨石に不動明王が彫られた川中不動。ここと隣の天念寺にて旧正月7日の晩に執り行われる法会が見たくて、今回そこへ日程を合わせて歩きに来ました。トレイルの中では前半のT3区間で天念寺を通り過ぎ、鎖場の連続する岩山を登っていく。国東半島を語る上で外せない要素が椎茸の原木栽培。大分県は江戸時代に椎茸の栽培に初めて成功した椎茸栽培発祥の地、今でも干し椎茸の生産量は日本一を誇り、特にこの国東半島は椎茸栽培が盛んです。その理由としては温暖湿潤な気候とクヌギの多さ、椎茸の原木栽培に適した樹種は主にブナ科コナラ属の広葉樹で、中でもクヌギが特に重宝されています。温暖な土地に自生するクヌギは、元々国東の山に多く生えていたそうですが今は植林で賄われ、国東の至る所で椎茸栽培のホダ場とクヌギ林を目にします。このクヌギ林を利用した循環型の椎茸栽培は、世界農業遺産にも登録されています。

九州の低山は照葉樹が優占し、冬でも鬱蒼とした森が多い。しかし、国東の山は落葉するクヌギが多いことでよく陽が射して明るい。日の出/日没時刻前後に山を歩いているとその恩恵に多分にあずかる。国東半島で特に印象深かった山が猪群山、標高500mに満たない山でありながらこの大展望。実はここは古代の祭祀遺跡という説があり、直径40mを越える巨大な環状列石(ストーンサークル)を形作っています。自然物なのか?人為的に置かれたものなのか?この場所で何を祈ったのか?ロマン溢れるスポットで古代へ想いを巡らせながら気がついたら1時間以上すごしてしまった。梅の花がほころび始める2月の国東、歩いた5日間は最低気温2℃から最高気温19℃と気温の振れ幅が大きかった。火山活動によって生まれた国東半島は、両子山を中心に放射状に尾根が伸び、仁聞菩薩が開いた寺院の数と同じ28本の谷が刻まれています。その半島をぐるっと回る峯道ロングトレイルでは、当然それらの尾根と谷を越えて歩くことになり、容赦ないアップダウンの連続となる。気温差と累積標高差の大きい今回のトレイルでは、汗冷えしにくい山と道『DF Mesh Merino』に通気性の高い『Merino Shirt』の組み合わせが快適でした。ウェアに天然素材を選んだ理由も実は参加する法会の為なのです…国の名勝に指定されている中山仙境は、無明橋、鎖場、馬の背が続く修験らしいスリリングな岩稜帯。周りに広がる岩峰から海までを望めて迫力があるルートです。中山仙境は登山対象としても人気があるようで、ここに来て初めて数組の登山客とすれ違った。中山仙境から2本の尾根と谷を越えた先にある大不動岩屋、峯道ロングトレイルパンフレットの表紙も飾っている景勝地。窟自体国東半島最大規模のもので、その中から見える景色はさらにダイナミック。眼前には奇岩が林立し、聞こえるのは鳥の声だけ、凪いだ海のように心が鎮まり、時間の流れが止まった感覚に陥る。この窟にいると発心する気持ちが少し分かります。

猪群山から中山仙境、大不動岩屋、岩戸寺へと続くこのT4~K1区間が特に山が多く、今回のトレイルのハイライトでした。峯道は135kmの内3~4割が山道で、林道や畦道も合わせると半分以上が未舗装の道です。これはお遍路や熊野古道など国内の他の巡礼路よりも山の割合が多く、思っていた以上にタフで歩き甲斐のある道でした。ルート上には補給箇所も殆どなく(温泉施設とお寺付近の土産物屋くらい)食料も日数分背負う必要があります。トレイル全体を通して看板は充実してる印象でした。しかし、荒れている箇所や分岐ルートも多々あり、マップの精度がそこまで高くなく迷いやすい所もありました。

今回はビビィ泊で山の中やキャンプ場、そしてご縁があったお寺に寝泊まりさせていただきました。一番冷え込んだ夜の気温が2℃だったので、−1℃対応のENLIGHTENED EQUIPMENTREVELATION SLEEPING QUILT 850 / 30°F』で5日間寒さを感じることはなかった。幾度となく推しているポイントですけど、休憩中にサッと広げてすぐ乾くのがキルトの気に入っているところ。

最近は暇があればザックを作っていて、今回も新しく自作したものを投入しました。ザックの中には山と道『UL PAD+』(山と道は店頭限定販売)を筒状にして入れています。泊まらせていただいたお寺の住職に話を聞くと、峯道ロングトレイルは実際の峯入行のルートとは若干違うようで、さらに多くの窟や岩場、天念寺無明橋(関係者以外は立ち入り禁止)などを草鞋で歩く険しいルートなんだとか。天台修験らしい山岳を実践修行の場として行う国東の山林抖擻(さんりんとそう)は紀伊半島の大峯奥駈道とほぼ同時期の成立で、今も続く荒行としては最古級のもの。国東文化を特徴づけるものとして、磨崖仏と石造物の多さが挙げられます。全国にある石造仁王像の内、実に8割が国東にあると言われていて、他にも無数の五輪塔、庚申塔、無縫塔、宝篋印塔を目にします。そして、国東塔や台輪鳥居といった国東ならではの象徴的石造物も数多い。

重要文化財にも登録されている学術的価値の高い端正な石造物から、地に埋もれ、風化し、苔むした、人々に忘れられた素朴な石造物までひとつひとつ違った表情があり、そして美しい。歩きながら国東文化の虜となり、素敵な野仏に出会う度に刻まれた文字を観察したり撮影意欲が湧き立ってしまい、もっと日数をかけてトレイル意外も歩きたいなと思わせる、そんな土地でした。爽快な山道、奥深き石造物の世界、峯道は真木大堂本尊の木造阿弥陀如来坐像(国指定重要文化財)や九州最古の木造建築である富貴寺(国宝)など、拝観料こそかかりますが立ち寄るべきスポットや、城跡や現代アートの作品もルート上にあってとにかく見どころが多い。

また、温泉施設も数ヶ所あって、数日を要するトレイルにはとてもありがたい存在。4日目も山を越え谷を越えいくつかのお寺を巡り歩き、温泉施設併設のキャンプ場に宿泊。ビビィだと山に張ろうが海辺に張ろうがアスファルトの上に張ろうが、どこで寝てもあまり変わらないけれど、お金を支払って借りたスペースで寝る際の安心感は代え難いものです。トレイル最終日は、六郷満山霊場特別札所の両子寺と両子山を目指す。国東半島最高峰の両子山(721m)、そしてその中腹にある両子寺は六郷満山を統括する総寺院。半島の中心に位置する最高峰はゴールに相応しく、その頂からは海の向こうの本州や四国の山並みを望めます。国東半島峯道ロングトレイル、独自の宗教観とそれを育んだ自然環境を体感できる素晴らしいトレイルでした!今回のトレイルで完全にソールがすり減ったALTRA『LONEPEAK9+』はこれにて引退。私は年間2足のシューズを履き潰すので、2足を並行しながら履いて1年間持たせています。昨年レビューを書いてから600km以上歩いてみて、踵の内側は擦れて破けたもの、アッパーに際立ったダメージはなく強度の向上を感じます。歴代履いてきたLONEPEAKの中には、ソールがすり減るより先にアッパーが破けてしまったものもありました。案の定トゥーガードは剥がれてしまいましたが、剥離がアウトソールまで広がらない限り気にしないことにしています。

1シーズン履いた印象として、1stレビューの通り柔らかく包まれる感覚が心地良く、今まで履いたLONEPEAKの中で一番フィット感が良かった。マイナス点はアッパーが強度アップの反面蒸れやすいので、夏や雨天時は他のシューズを選ぶことが多かった。

9+最大のアップグレード、ソールの素材変更に関しては、やっぱりVibram Megagripに勝る安心感はないなと思います。滑りやすい蛇紋岩やナイトハイクでも躊躇わず足を置け、従来の素材に比べるとラグがすり減ってきてからもグリップ性能が落ちにくいように感じました。履き古した引退直前のシューズでも山の多い国東を不安なく歩けましたし、ラグが減るスピードも緩やかに感じたので、より長く使える一足へと進化を遂げたのではないでしょうか。今年BAMBOOSHOOTSでは定番のBLACKやGRAYの他、新色のTANをラインナップに加えています。国東半島峯道ロングトレイルを歩き終えた後は、国東に来た一番の目的修正鬼会(しゅじょうおにえ)を見るため天念寺へ向かいました。1300年の歴史を持つ修正鬼会は六郷満山最大の法会で、重要無形民俗文化財に指定されています。

一般的に恐れる対象である筈の鬼が、国東では来訪神としての性格を持ち、鬼に関する伝承も多く残されています。(例えば、熊野磨崖仏へ続く石段は鬼が一夜で築いたものだとか。)修正鬼会に登場する鬼は、厄を払い幸福をもたらす神であり仏であり、また祖霊でもある。夜中まで続く修正鬼会のクライマックスでは鬼が持つ松明で見物客をぶっ叩く、これは加持と呼ばれる無病息災や諸願成就の祈りを込めたありがたい儀式。旧正月の寒い夜、ダウンジャケットやフリースを着ている人達が鬼に追われ、松明で叩かれ、服が溶け、阿鼻叫喚となる。(参加せず見るだけも可能ですし、燃えやすい服で来ないように注意喚起されています。)

燃えにくい『Merino Shirt』を着て参加した私はもちろん加持を受け、無病息災を願った。熱気冷めやらぬ中23時ごろ終了となった修正鬼会、勇壮な法会に参加でき感極まった私は、寝れる場所を探すべく一人夜道を3時間歩いて豊後高田の町へ向かった。神と仏と鬼の道、総歩行距離170km。

ここまでご覧いただきありがとうございました。

坂本

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