《 岩手紀行 -破- 》岩手山から裏岩手縦走路を経て八幡平へ
【2日目】
早朝4時30分過ぎ。自然と目が覚めて2日目がスタート。
外の様子はザァーザァーではないが、シトシトと雨が降っていた。
晴れていれば外が白み始めるこの時間を楽しみながら歩き始めるところだが、雨が降っているのでは仕方がない。
この日の行程は30km、ゴールは八幡平。
なるべく早く付いて八幡平を散策したり、八幡平頂上レストハウスの稲庭うどんを食べたりしたい。
そう思う反面、午後から晴れる予報が出ている中で、早くから動きすぎるとせっかく縦走路の核ともいえるセクションのほとんどをガスった状況で切り抜けることになってしまいかねない。
事前に調べた八幡平頂上レストハウスの営業時間は17時まで。
ということは、おそらくラストオーダーは16:30だろう。
当初の計画では、5:15に8合目避難小屋を出発して15:30には八幡平に到着する予定だったので、昨晩の予定変更案通り少しゆっくりしてから出発しても16:30には滑り込めるだろう。
そうして再度シュラフを被り、しばし限られた音だけの時間をボーっと過ごした。
時刻は午前6時、不動平避難小屋を後にする。
朝食に昨日買っておいたセブンの赤飯オニギリを頬張り、パッキングを行いシェルを羽織っていざ出発。
予報通り時間が経つにつれて雨の勢いが弱まっているようだ。
しかし、まだまだ霧は濃い。
出発早々に長い雪渓の直登が待ち構える。
さっそくチェーンスパイクを取り付けて慎重に登る。
進むにつれてなだらかな山容に変化していく本日の行程の中で、この後の『鬼ヶ城』周辺が一番過酷といえる場所。
切り立った断崖地形の稜線を5㎞ほど進んでいく。
情報によると岩手山をすぐ後ろに控えて、向かって左手側の秋田駒方面から右手側の八幡平方面まで見渡せる絶景の中を行くことができるとあり、とても期待していたが現実は5m先を見据えるのがやっとだった。。
でもこんな状況、こんな感情は山岳雨男のボクにとっては日常茶飯事。とうの昔に慣れているので、暴風の霧中を楽しんで進む。
鬼ヶ城を越え『黒倉山』に到着。
黒倉山に取り付く頃には、道は切り立った岩場から比較的なだらかに稜線に変わっていた。
そして、ここでついに少しだけ霧が晴れる。気が付けば雨も完全に上がっている。
このまま霧がより抜けるのも待つまで少し休憩を、と思ったところで道中の案内版を思い出す。
ここ黒倉山の直下には松川温泉の源泉が湧く『地獄谷』が流れていて、そこから噴出する火山性ガスが風向きによっては黒倉山山頂目がけて吹き上がるらしい。
場所によって濃度が濃く停滞は危険とのことだった。
ここを通りかかる際は、頭の片隅に入れておいて十分なご注意を。
また、黒倉山山頂部に、気象庁管轄の『岩手山火山観測局』が設置されているのを発見。
辺り一帯が現在進行形で活動中の活火山であることを再認識。
黒倉山を後にして程なく、お次はこんな注意版が。
この辺り一帯は、火山の影響で地温が高いそうだ。
登山道から外れると地温が高く危険な箇所があるのでここも注意が必要。
登山道沿いの地面ですら手をおくとほのかに暖かく、地熱の影響を感じることができる。
午前9時。
犬倉山山頂からようやく進行方向を見渡すことができた。
ここからの天候回復に期待がかかる。
そしてこの辺りから、なだらかなアップダウンとぬかるんだフラットトレイルのリフレイン。
ぬかるみさえ気にならなければ歩きやすいので、どんどん歩を進めていく。
午前10時過ぎには三ッ石岳山荘に到着。
この後に通る三ッ石岳山頂の眺望が良いようなので、天候回復を待つためここで昼食を取ることにした。
そしてゆっくりと昼食を取っているとついにその瞬間が現れる。
ようやく、ようやく雲の切れ間から青空が顔を出す。
そうとなれば一気に晴れ間が広がっていく。
山荘周辺の湿地に気持ちの良い青空が一斉に反射する。
昼食を食べ終わる頃には岩手山方面にも晴れ間が広がっていた。
三ッ石岳に向かう最中、振り返って初めて目にする岩手山の晴れ姿。
こちらから望む岩手山は文字通り『山』のような形に見える。
三ッ石山荘を見下ろす。
どの季節に訪れたとしても絶景空間となること間違いなしの最高といえる立地に佇む。
12時を回ったころ、三ツ石岳山頂に到着。
どこがピークなのか分からないほどなだらかな中に巨岩がチラホラ。
それらが大きく3つあるから三ツ石岳なんだろう。
ここではじめて縦走路全体を見渡すがことができた。
非常に心地よくてしばし休憩。
ここから一気に八幡平を目指して突き進むことになる。
しかし、そんな気持ちとは裏腹に路面状況は徐々に悪化していく。
まずは残雪。
大深山手前から登山道上の残雪が顕著に目立ち始めた。
やっかいなことに、底が空洞になっているから積雪が薄い場所では何度も何度も踏み抜く始末。。
お次は沼地。
八幡平に近づくほどに湿地帯が増え、雪解けも相まってぬかるむどころか水没しているセクションが目立つ。
しかし文句ばかりもいってられない。
小学生の頃、自分から水たまりに突っ込んでは帰って親に怒られていたあの頃の無邪気さとお茶目さを思い出せ。
と言い聞かせてジャブジャブ進む。
うん、だんだん楽しくなってきた。この調子だ。
この辺りは、無心で歩いていて正直あまり記憶がない。
いよいよ腹も減っていたし、八幡平レストハウスのラストオーダーも迫っている。
はたして間に合うのか、という焦りを残して最終章へ続く。
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