BAMBOO SHOOTS MOUNTAIN JOURNEY vol.3


 

 

自分の作るウェアに責任を持つということ 

 〜前編〜

(要するに山で実際に試してみるという回)

なんだか意識高そうなタイトル付けちゃいましたが、3回目となる「BAMBOO SHOOTS MOUNTAIN JOURNEY」では、ディレクターの甲斐が、これまで自身で作ってきた服を実際に山で試してみた、という回です。片道2時間程度の山歩きとテント泊をすることで見えてきた今後の課題とは?

 

  

 

 

 

―今回はこれまで甲斐さんが作ってきた服で山に行ってみたわけですが、じっさいどうでした?

 

 

甲斐:今回着てみたのは、自然の中でも着ることができる服、くらいの位置付けです。あくまでも日帰りの低山ハイキングとか、そのくらいの想定です。でも、予想していたよりぜんぜん行けるな、という実感はありました。

 

 

―けっこう天気も荒れましたよね。

 

 

甲斐:そうですね。天然素材が多かったので、やはり雨は厳しい。

 

 

―シルエット的にワイドなものが多い印象でしたが、動きやすさという意味ではどうでした?

 

 

甲斐:そこはとくに問題は感じなかったですね。ただ岩場でクサリ場とかが出てきたらまた話は変わってくるとは思います。

 

 

―今後は、ハイキングレベル以上の山行でも着られるような服は作っていく予定なんですか?

 

 

甲斐:もちろんです。いまサンプルが上がってきているものは素材も見直したりしてます。今回、あえていままで作った服で山に行ってみたのは、自分が好きな服装をアップデートしていかないと僕が山の服をやる意味がないからなんです。基本的なシルエットなどはあまり変えず、どうしたら山にもっと対応できるかを探ってきた感じですね。

 

 

―具体的にはなにか見えたものはありますか?

 

 

甲斐:山で履くパンツはバックルじゃなくて紐のほうが良いなとか、けっこうそういう細かいところですね。シルエット的にはタイトなものよりも、ワイドのほうが快適に感じました。

 

 

―なるほど。では引き続き、今回山で着たスタイリングについてコメントをお願いします。  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

B.P.’S MOUNTAIN PARKA 

FATIGUE CROPPED PANTS-SATIN 

甲斐:マウンテンリサーチとコラボして製作したアイテムを軸にしたコーディネートですね。マウンテンパーカは背中のジップを開くとポンチョのように広がるので、中にデイパックなどを背負ったまま着用できます。



―今回、山で着てみてどうでした?



甲斐:生地はもっと全体的に軽くて良いのかなと思いました。頑丈さはあるんですが、やっぱりナイロンとかのほうが機能的には合いそうですね。あとは、もうちょっと色を使っても良いかもしれませんね。たとえばくすんだオレンジとか。ローテクなんだけど、ちょっと明るい色というイメージです。



―山で軍パンってけっこう新鮮でした。



甲斐:本来の用途からしても登りやすいはずなんですよ。収納もあるし。バンブーシュートで山の服を買いにきた人を接客するときって、まず元々持ってるものを聞くんですよ。そうするとだいたい軍パン持ってるんですよね。じゃあ、無理に全身買わなくてもとりあえずそれで行ってみましょうって。日帰り低山だったら、まずは持ってるもので行ってみて、そこで不快だと感じたものをアップデートしていけば良いんじゃないかなと思ってます。



―たしかに、一式どーんと買ってしまうより、そうやって自分自身でアップデートしていったほうが経験値も上がりそうですね。

 

 

 

60/40 TRECK JACKET

PLEATD CLIMBING PANTS TYPE-3 CROPPED 

 

 

 

―ジャケットの収納がすごいですね。アタックザックの代わりになるくらい入りますよね。

 

甲斐:フロントとバックに大きなポケットがありますからね。もともとはボディアーマーベストなんですよ。それに袖を付けた感じです。

 

―入口がベストだから、こんな自由な収納が生まれたんでしょうね。パンツもすごく調子良さそうでした。

 

甲斐:うちの定番のクライミングパンツです。2タック入っているので、足が上げやすいんです。

 

―あ、タックってもともとオシャレじゃなくてちゃんと機能を持たせるために生まれたんですね。でも山の服では意外とタック入りって見かけないですね。

 

甲斐:エベレストに初登頂したエドモンド・ヒラリーの写真とか見ると、履いてるパンツにタックが入ってるんですよね。それがヒントになってます。

 

―股のガセットはないんですね。

 

甲斐:そうです。ガセットなしでも十分開く作りにはしていますけど、自分自身180度開脚できないですから(笑)

 

―たしかに! クライミングだったら180度開脚のシーンはありますけど、歩くだけだったら必須ではないですよね。あとガセットって座った時に美しくないですよね。

 

甲斐:もっこりする(笑)。

 

 

 

 

TRECK KILT - WOOL

3LAYER SHIRT JACKET W / HOODIE

―いわゆる巻きスカートですよね。かなりチャレンジング。

 

 

 

甲斐:でも、すごく暖かいんですよ。軽いし、山に持って行くのはアリだなと感じました。この手のスカート的なものは、山岳民族も使ってたりしますしね。

 

 

―いろんな使い方ができそうですよね。

 

 

甲斐:テン場で肩に掛けてもいいし、膝掛けとしても使えます。あとはテント内の敷物にしてもいいですね。柄のあるバージョンを作るのも良いかもしれない。

 

 

―アウターは一応、レイン的に使えるんですよね。

 

甲斐:これはスケーターやサーファーがよく着ていたスウェットフード付きのネルシャツを、防水素材のeVENTにしたって感じです。

 

 

 

―シャツっていうのが新鮮ですね。

 

 

 

甲斐:軽い雨ならこれで十分だと思います。ベンチレーションはないですが、シャツなのでフロントを開けて着たりもしやすいですし、下からの抜けも良いから蒸れにくい。

 

 

―手首の部分もボタンなんで袖をまくって着たりもしやすいですね。

 

 

甲斐:ただ、前から雨が吹き付けてくるような状況だとレインとして使うには心細さがあるので、生地を激薄にしてウィンドシェル的なアップデートもありかもしれませんね。  

 

 

 

 

LONG SLEEVE CORDUROY SHIRT 

MERINO WOOL LONG SLEEVE HOODED SHIRTS

PLEATED DENIM CLIMBING PANTS TYPE-2 TAPERED( STONE WASH) 

―デニムですね。

 

甲斐:山でデニムって僕にとっては、なんだか憧れというか原点な感じなんですよね。

 

―この前の山でも行動中はこの格好でしたね。

 

甲斐:デニムとシャツのこのスタイルは、ある意味僕の中での山の格好の理想形です。中にメリノウールを合わせているんですが、これが抜群に良かった。インナーをメリノウールにするだけで、他の服のポテンシャルは、ちょっとくらい下げても大丈夫かもしれないなと思いました。

 

―デニムって歩きにくそうとか、そういうイメージがあると思うんですが。

 

甲斐:それってたぶん、いわゆるジーパンのイメージだと思うんですよね。でも僕が使ったのは、シルエットはクライミングパンツだし、生地も10オンスでかなり薄くしているから、とくにストレスないんですよ。

 

―コーデュロイを合わせてる感じもクラシックですね。

 

甲斐:これも古着とかそっちのノリに見えるかもしれないんですが、腕周りはYジョイントスリーブという作りにしているから動きやすいんです。

 

―途中に出会った犬連れの方も、チノパンにコットンシャツでしたもんね。ある種のシンパシー。

 

甲斐:たしかに、スタイル的にちょっと似てますね(笑)。

 

 

 

"PHOOD FOR THOUGHT" PULLOVER HOODED SWEAT SHIRT 

PLEATED FIELD TROUSERS- HERRINGBONE 

 

 

―これ、甲斐さんの普段着まんまじゃないですか(笑)。

 

甲斐:そう。遠足スタイルです(笑)。小さい頃の登山遠足って「動きやすい格好で、足元だけはしっかり」みたいな感じだったじゃないですか。だからこれで行ったらどうなのかなと。

 

—どうでした?

 

甲斐:いまはたくさん高機能素材とかありますからね。あえてこっちを選ぶ必要はないと思うんですが、僕が作る山服の原点はやっぱりこのアメカジにあるんですよ。

 

―バックプリントの「PHOOD FOR THOUGHT」ってのは?

 

甲斐:「FOOD FOR THOUGHT」をもじってるんですけど意味的には「もっと食べ物について考えよう」的なことですね。でも表には思いっきりジャンクフードのポテトが描かれているという。

 

―文字通り表裏のあるスウェットですね(笑)。

 

甲斐:それにしても山のジャンクフードって、なんであんなに美味しいんでしょうね(笑)。

 

 

 ~ 後編に続く~

櫻井 卓 Takashi Sakurai
ライター。「TRANSIT」「Coyote」などの旅雑誌のほか「PEAKS」など山の雑誌でも執筆。国内外の国立公園巡りをライフワークとし、これまで訪れた海外の国立公園はヨセミテ、レッドウッド(カリフォルニア)、デナリ(アラスカ)、アーチーズ(ユタ)、グランドキャニオン(アリゾナ)、ビッグベンド(テキサス)
サガルマータ(ネパール)、エイベルタズマン(ニュージーランド)など。とくにヨセミテ近辺は、何度も訪れている。
www.subsakurai.com

木本日菜乃 Hinano Kimoto
写真家。株式会社アマナを経て2020年に独立。現在はフリーランスの写真家として「TRANSIT」「FRaU」「BRUTUS」などの雑誌のほか、GOLDWINと環境省の
WEBサイト「NATIONAL PARKS OF JAPAN」にて、日本の国立公園の撮影も担当。新宿御苑などでの写真展も開催している。
www.hinanokimoto.com