BAMBOO SHOOTS MOUNTAIN JOURNEY vol.6

「山の服を作るきっかけにもなった、マウンテンリサーチ・小林節正さんに会いに」

実は甲斐が山の服を作り始めたきっかけは、マウンテンリサーチの小林節正さんと作っているトレックウェア・シリーズでした。今回は、居心地良すぎる小林さんの基地にお邪魔して、じっくり対談させていただきました。

 

甲斐一彦(以下、甲斐):実はいま、山の服を作っているんですよ。

 

小林節正氏(以下、小林。本文中敬称略):それはどういう方向性なの?

 

甲斐:ざっくり言ってしまえば、アメカジで山に登るみたいな。かぎりなく普段の自分の服装に近い格好なんですが、山でもちゃんと使えるものが理想です。

 

小林:でも、甲斐はすでにアメカジに近い格好で山に行ってるんじゃない?

 

甲斐:そうなんですけどね(笑)。シルエットはあまり変えず、適度に機能素材も使ったり、もうちょっと登山にアジャストしていく感じです。実は、山の服を作ろうと思ったのって、小林さんと一緒に作っているトレックウェアシリーズの存在が大きいんです。

 

小林:トレックウェアシリーズはどっちかというと“山で過ごす服”という位置付けだからなあ。甲斐がいま作ろうとしているものとはちょっとベクトルが違うかもしれないよ。

 

甲斐:でも、それがあったから「こういう格好でも山に登れるんじゃないか」という目線も生まれたんですよ。先日、全身トレックウェアシリーズを着て南高尾を歩いたんですけど、まったく問題なかったです。元を辿っていくと、小林さんと一緒に服を作りたいと強く思ったのが、2007年のマウンテンリサーチのシャツです。

 

小林:これ懐かしいなあ。プリントのネルシャツか。でもこれちょっと着すぎじゃないか? 2007年のものに見えないんだけど。地面に埋めてた?(笑)

 

 

甲斐:これを見てから、古着を元にして再構築するみたいなスタイルに憧れたんです。

 

小林:それで最初に一緒に作ったのが“Ph”シリーズ(小林節正氏と甲斐一彦によるコンセプトライン)か。正直、甲斐から話が来たときは別に作らなくても良いんじゃない?って思ってた。古着で良い物があるわけだし。

 

甲斐:Ph”っていうのは小林さんの中でどんな意味合いなんですか?

 

小林:ファンタジーだね。Fじゃなくて“Ph”antasy。もしかしたらあったかもしれない並行世界を、服というジャンルで表現してみるのは面白いかなと思ったんだよ。だから原型はあまり変えず、そこにファンタジーなギミックを組み込むというスタイルにしたんだよね。

 

甲斐:Ph”は2人が好きなバンドのPhishFANを表す言葉ですしね。なんだか特別な2文字です。

 

小林:それがいまのトレックウェアのシリーズにも繋がっていったという感じかな。

 

甲斐:古着、とくに軍モノとかワーク系のディティールって、調べていけばいくほどアウトドアというか体を動かすということに特化しているものが多いんですよね。

 

小林:たしかにね。そこから山との親和性みたいなものも感じたわけだ。

 

甲斐:でも、山だからって、行儀の良い物にはしたくないんですよ。

 

小林:まあ、うちらじゃ、やろうと思っても無理だしな(笑)。

 

 

甲斐:このベイカーパンツなんて、超不良ですよね。

 

小林:股部分がファスナーでガバッと開閉できる仕様ね。これはぜひ下着を着用しないで履いて欲しい(笑)。

 

甲斐:キジ打ち(※山で用をたすこと)仕様。でも、形はしっかりと原型を留めてますもんね。

 

小林:このギミックの元ネタはパンクの名ディティールなんだよね。甲斐のこのベイカーパンツはどのくらい履いた? こんぐらい洗うと、また良いねえ。あとは甲斐がこれを履いてキジ打ちの具合を確かめてもらえれば。

 

甲斐:なかなかの冒険ですよね。間違って付いちゃったら……。

 

小林:文字取り、汚点がおっかけてくることになる(笑)。

 

 

甲斐:マウンテンパーカもなかなかパンチが効いてますよね。たしか小林さんと「ポンチョみたいに着られるマウンテンパーカ」というテーマで進めた記憶があります。

 

小林:フード部分、要は肩線の上までファスナーで開くようにしているのが、このマウンテンパーカの肝なんだよね。

 

甲斐:肩線の下までで終わらせておけば、工程的にはかなり簡単になるんですけど、それだとバックパックを中に背負った時に、ちゃんとしたシルエットにならないんですよね。

 

小林:それにくわえて、締めちゃえば普通のマウンテンパーカになるというところは大事にしたかった。

 

甲斐:これ着てたら「そのシエラパーカ、なんで背中にファスナー付いてるの? 別注?」って聞かれましたよ。

 

小林:おっ、シエラパーカと勘違いしてくれたってのは、好ましい状況だね。遠くからだと、そういうトラディショナルなものに見えるというのも狙いだから。

 

甲斐:シャンブレーシャツもシルエット自体は普通なんですが、両サイドがボタン留めになっていて、ガバッと開くようになっています。

 

小林:これは俺の面倒くさがりな性格を反映しているかもね(笑)。山を歩いてる時って、ウェアの脱ぎ着が大変じゃない。バックパックを下ろして、シャツを脱いで、シャツをバックパックにしまって、また背負う。4つもアクションがある。

 

甲斐:実際に山で使ってみたんですが、横がこれだけ開けば、かなりの通気性でしたよ。このへんのベイカーパンツ、マウンテンパーカ、シャンブレーシャツなんかは素材をもう少しテクニカルなものに変えれば、登山でも使えると思うんですよね。

 

 

小林:甲斐がそういう路線に行くのは全然否定しないんだけど、俺としては正直もう、石油系のものに手をだしたくないなっていうのはあるんだよね。服って、10年もすればゴミになってしまうじゃない? そうした前提に立って考えちゃうと、いい歳してあんまりバカなことやってもなって(笑)。だから、甲斐とやるトレックウェアに関しても、くたびれるまで着てもらえるような服にしていきたいよね。

 

甲斐:僕が持ってる小林さんのシャツみたいな?

 

小林:あれはくたびれてるってレベル超えてるよ(笑)。でも、トレックウェアシリーズが、良い感じにくたびれて行く様子を見ていくのは楽しみだよね。関わっている時間が通常のものよりも、もっと長い服というか。そういうものにしていきたいとは思うなあ。

 

甲斐:そういう意味では古着って究極系かもしれませんね。50年前とかの服をいまでも着てるわけですから。

 

 

甲斐:ところでいまって、便宜的にトレックウェアシリーズにしてますが、正式名称がないですよね。どんなのが良いと思います?

 

小林:「甲斐の路」で良いじゃん。今後作る物も全部言い表せている気がするよ(笑)。

 

甲斐:なんか和菓子っぽくないですか。

 

小林:ローマ字で行くというのはどう? 「KAI」。「CAY」とかにしちゃっても良いかもしれない。

 

甲斐:うーん。自分の名前とか出すのあんまり好きじゃないですけど、なんかそれもアリな気がしてきました! 

 

 

 

 

 

櫻井 卓 Takashi Sakurai
ライター。「TRANSIT」「Coyote」などの旅雑誌のほか「PEAKS」など山の雑誌でも執筆。国内外の国立公園巡りをライフワークとし、これまで訪れた海外の国立公園はヨセミテ、レッドウッド(カリフォルニア)、デナリ(アラスカ)、アーチーズ(ユタ)、グランドキャニオン(アリゾナ)、ビッグベンド(テキサス)
サガルマータ(ネパール)、エイベルタズマン(ニュージーランド)など。とくにヨセミテ近辺は、何度も訪れている。
www.subsakurai.com

木本日菜乃 Hinano Kimoto
写真家。株式会社アマナを経て2020年に独立。現在はフリーランスの写真家として「TRANSIT」「FRaU」「BRUTUS」などの雑誌のほか、GOLDWINと環境省の
WEBサイト「NATIONAL PARKS OF JAPAN」にて、日本の国立公園の撮影も担当。新宿御苑などでの写真展も開催している。
www.hinanokimoto.com