BAMBOO SHOOTS MOUNTAIN JOURNEY vol.30
尾瀬で、なにもしない。
ここ3ヶ月ほどイベント続きで、山に行けていない! というBambooShootsディレクター甲斐。その一言をきっかけにLOGの笈川さん、ライターの櫻井の3人で今回向かったのは尾瀬。
最初に言っておきます。登りません。
尾瀬には至仏山、燧ヶ岳と2座の百名山があるんですが、そのランドマークをあえてスルーすることで、新たな尾瀬の楽しみ方が見えてくるのではないか。そんな思いがありました。甲斐もゆっくりしたそうでしたしね。
今回提案したいのは、ピークを目指さない尾瀬。登るかわりに、歩いて、食べて、飲んで、泊まる。そんな“避暑地としての尾瀬”です。
鳩待峠でバスを降りるなり、甲斐が一言。
「もう、飲んじゃいます?」
最近リニューアルされた鳩待峠には、星野リゾートが経営している宿泊施設や新しいショップがオープンし、以前とはずいぶん雰囲気が変わりました。売店というより、山のエントランスにあるカフェのような空間です。
品揃えも充実していて、甲斐が手に取ったのは地ビール。
「もちろんイエスです!」と笈川さんもすぐに賛同。
ここからはユルく下って行くだけだし、まあ、良しとしましょう。

「甲斐さん、そのバックパックって……」
LOG屈指のギア好きである笈川さんが目ざとく反応します。その日甲斐が背負っていたのはビンテージのゴッサマーギア。甲斐はこうしたビンテージのアイテムを集めていて、それをアーカイブとして自分の作るアイテムに落とし込んでいるといいます。
「昔あって、いま無くなってしまったものの中にはいまだに通用する傑作ディティールもたくさんあるから、そういうものからヒントを得ることは多いんですよ」と甲斐。古い物と新しい物をリミックスしていくのが甲斐の物作りの真骨頂です。
「今日は速く歩く必要もないですし、こういう好きなビンテージアイテムで行けるというのも、こういうユルめの山歩きの魅力かもしれませんね」

鳩待峠から、次の山小屋がある山の鼻エリアまでは、ゆっくり歩いても1時間半程度。道中にはミズバショウもいますが、残念ながら時期がまだちょっと早いようです。そして山の鼻につくと、甲斐が一言。「ここでも飲めそうですよね?」
まさかの山小屋ハシゴ酒!? 褒められたことじゃないかもしれないですが、どこにも登頂しないわけだし、この先の道に危険箇所はありません。まあ、こういう楽しみ方をしても許される優しさが、尾瀬にはあります。
「か、甲斐さん、まさかのロング缶!?」
LOGの笈川さんも、さすがに驚いていましたけど……。


ここには至仏山への分岐もありますが、華麗にスルーして尾瀬ヶ原エリアへ。訪れた7月頭は、カキツバタが咲き乱れ、ニッコウキスゲもチラホラ。モウセンゴケという食虫植物もいます。普段あまり植物に興味のない2人も、日本屈指の尾瀬のお花の前では、腹ばいおじさんズと化し、写真を撮りまくっています。

よく整備された木道を歩いて行くと、心地良い風が吹き抜け、下界よりもずいぶんと過ごしやすい。正面に燧岳を眺めつつ、龍宮小屋を過ぎたら、今日の目的地である見晴エリアまではすぐです。見晴は、昭和30年代頃から小屋が建ち始め、いまではここだけで小屋が6軒あり、毎年多くの尾瀬LOVERが訪れている場所です。
この日は尾瀬小屋で豪華ランチ! なんと通し営業。8000円以上でカードも使えるから、ここで豪遊! というのが今回のメインコンテンツです。
それぞれ、フォー、ハラミ丼、ガパオライスと、山小屋とは思えないメニューを注文。生ビールはもちろん、お酒も各種揃っているし、スイーツもあります。ここは山だっけ? というクオリティの高さです。ちなみにこの尾瀬小屋には日帰り入浴もあります。もはや高原ホテルと行っても過言ではありません。
「山小屋で昼からゆっくりするのって、かなり贅沢ですね。もともと昼飲み好きなのもあるかもしれませんが(笑)」

尾瀬は夕方以降が良いんです。バスが終わって、泊まりの人しかいなくなるから、独占感がすごい。美しい尾瀬ヶ原を眺められるデッキで、甲斐は先ほどからグイグイいっています。ふと笈川さんのほうをみると、まさかのほろよいチョイス。たしかに顔はガン酔いだから、ちょっとペースダウンしたほうが良いかもですね。

おおいに尾瀬リゾートを満喫したあとは、テント場に移動。今日は我々以外に1人いるだけというほぼ貸し切り状態です。甲斐はプレテントのピンクを愛用。もともと甲斐がLOGに興味を持ったのも、このピンクテントがあったからだそうです。
「最初にこのテント見た時に、なんだこれは!?って。どこかMOSSのテントのような雰囲気もあるし、すごく好みですね」
気温も野外で過ごすのに最高。蚊やブヨなどの気配も少ない。これは周囲を飛び回っているトンボのお陰です。

夕食は、各自持参した山飯タイム。なんだか笈川さんのほうから香ばしい匂いがすると思ったら、まさかのチャーハン!
「冷凍チャーハンって、保冷剤にもなるから良いんですよ。登らないから重さもそんなに気になりませんし。これもありますよ」と笈川さんが取り出したのは、日本酒。しかも瓶でもってきてるし……。


「オイちゃんのそのケースいいですね」と甲斐が反応したのは、LOGの「TL ROLL BAG L」。ダイニーマリップストップ素材のロールバッグで、笈川さんは主に山での食材入れに使っているそうです。
「中綿入りのインナーが付くので、簡易的な保冷バッグにもなるし、クッション性もあるから、今回みたいに瓶を守るのにも良いんです」
甲斐はBSSのDCFスタッフサック。「クッカーなどは横長のほうが収納しやすいですよね」という意見に一堂納得。


食後もゆるゆる飲み会は続き、急に笈川さんが静かになったと思ったら、ベンチで釈迦寝。今日はこのへんでお開きにして、それぞれのテントに戻ることにします。尾瀬はたくさんの熊の生息地。念のため食料などはベアキャニスターに入れます。人間側が配慮する、というこの考え方には強く共感するから、日本の山旅でも最近は積極的に持って行くことにしています。

翌日は、テントを打つ雨音で目が覚めます。
すばやくテントを撤収して、雨が落ち着くまで、尾瀬小屋で優雅なモーニングコーヒータイムを堪能してから出発。
ここから鳩待峠までのピストンがメジャーですが、実は大清水にクルマをデポしているので、尾瀬沼を抜けて下山が可能。このやり方だと一泊二日で尾瀬エリアを満喫できてしまうのです。大清水から戸倉の駐車場までバスもあるので、2台体制を取れない場合はその利用もおすすめ。ただしバスの運行時間には注意が必要です。
燧ヶ岳の分岐も華麗にスルー。
このあたりは美しい樹林帯が広がっていて、昨日の尾瀬ヶ原とはまったく異なる風景。この先には尾瀬沼が待っているし、変化が多い良いトレイルです。甲斐と笈川さんはルーペで植物を観察したりしています。
「普段の山登りとは違って、体力的にも余裕があるから、周囲の自然に目を向ける余裕が生まれますね。登ることももちろん好きですが、こういう風にどっぷりと自然に入りこめるのも、こういうフラットな歩き旅の魅力かもしれませんね」と甲斐。

2つの峠を越えると、目の前にドーンと尾瀬沼が広がります。昨日までとは、また打ってかわった景色。ちなみにこの尾瀬沼には、巨大イワナが生息しているという噂もありますが、霧で霞んだ神秘的風景を見ていると、いかにもいそうな雰囲気です。

その後は、沼沿いをぐるっと周回するルートをとって、大清水方面へと下りていきます。
「次はどこで宴会しますかねえ」
「山って登頂だけじゃないんですよね。歩いて、美味しいものを食べて、気持ち良い景色を眺める。それだけでも十分に豊かな時間です。ピークを目指さないというのは、アメリカのハイキングカルチャーにも通じるものがありますしね」と、すっかり“なにもしない尾瀬旅”を気に入った様子の甲斐。目線を少し変えて地図を眺めてみると、こうした旅が楽しめる場所は意外とたくさんあります。立山の雷鳥沢や九重の法華院、霧ヶ峰や美ヶ原など……。山は、登るためだけにあるわけではありません。歩いて、食べて、語らって、ときどき昼からビールを飲む。そんな自由な山旅は、甲斐が昔から大切にしてきたアウトドアの価値観とも重なっているようでした。
Text/Takashi Sakurai