【HMG DAYBREAK レビュー】2泊3日の古道歩き 六十里越街道から月山へ〈後編〉
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私は長らく山小屋で働いていたので、今年は久しぶりに下界で過ごす夏。9月になっても気温の下がる気配がない東京の暑さに耐えかね、東北へ避暑しに来たものの、山形も厳しい残暑。
初日のタープ泊は標高が低いこともあり、凄まじい蚊の猛攻。ネットを被っていなかったら一睡もできなかったでしょう…
〈2日目〉
東から空が明るみだし、暗闇から白く浮きあがるブナの樹皮。美しくも不気味でもある幽玄な雰囲気。
ヘッドライトを点けなくても歩ける明るさになったところで朝食タイム。
いくら軽量化とコンパクトパッキングに専念しても、コーヒーを毎朝ドリップして飲むルーティンは譲れません。今回はお気に入りのロースターで購入した、アナエロビックナチュラル製法のベトナムをドリップ。事前に自宅で豆を挽き、ドリッパーの不要なペーパーを持ってきました。野苺を思わせる心地よい酸味が染み渡ります。
今回のクッカーシステムは、MYOGしたアルコールストーブと風防を用いて、TOAKSのハンドルレスクッカーでお湯を沸かしました。付属のスタッフサックが3Dメッシュなので断熱性があり、ミトン代わりにクッカーを掴めます。
最近はドリップポットでもハンドルがなく、革等の断熱素材が巻かれて鷲掴みするタイプが増えてきました。その事実が示す通り、繊細なコントロールができてドリップしやすいのです。クッカーのハンドルってガタつきますし…。
湯殿山に近づくにつれて、歩きやすい箇所が増えてゆきます。写真の”大掘抜”の他にも”小堀抜”といった、かつて山を削って整備した切通しがあり、湯殿詣に訪れる巡礼者がそれだけ多かったことが伺えます。
細越峠を降り、湿地帯や渡渉を経てから登り返すとついに”湯殿山神社”へと出ます。山道が急に開けて舗装路に出たかと思うと、目の前には圧倒的存在感の大鳥居。
月山の登山口傍にある本宮は撮影も土足も厳禁、お祓いを受けてからお参りをします。古くから「語るなかれ」「聞くなかれ」の戒めのある神秘の聖域。なので多くは語りませんが、厳かな気持ちで山と対峙することができました。
本宮の手前には湯殿山レストハウスがあり、食事を摂ったり菓子類や飲み物の補給が可能です。六十里越街道に入る前のロード歩き区間と月山の山小屋を除けば実質唯一の補給ポイント。
湯殿山神社の先は、月光坂から一気に標高を上げていく。
いきなりの急坂と梯子の連続にバテ気味な同行者。
ヒメヤシャブシから笹に覆われた山容はいかにも東北らしい。
そして、余裕をこいて取った休憩が仇となったのです…
予報より早く天気が崩れだし、頂上の山小屋まで残り10分もない地点で雨が降り始める。それも急な土砂降り。雨具を着る暇もなく小屋も目前だったので、傘で凌いで小屋に避難。
数分の出来事でしたが、Daybreakのフロントとサイドポケットは孔からの排水が追い付かず水溜まり状態に。その際ポケット底部の縫い付けから水が染み込んだようで、ザック内部は軽く浸水…。シーム処理がされてないので、この辺は当然っちゃ当然ですね。
今回はテントと雨具とザックカバーを兼ねるつもりでポンチョを選んだのですが、雨が降る前にポンチョを着てザックを保護しなかったのは失態でした。
しかし、そんな土砂降りでも底の縫い目から染みた程度。止水ジッパーからの侵水はなく、改めて防水性の高さを実感。幸いにもザックの底にあるシュラフカバーが湿った程度で済みました。
レインジャケットの上から背負ったり、長時間雨に晒されることが想定される場合は、やはり別途で防水が必要ですね。パックライナーだとパネルローディングの良さを損ねてしまうので、濡らしたくないものは個別に防水のスタッフサックに収納するのが良いと思います。ザックカバーは形状的に相性がよくないかと。
2日目の宿泊予定地は念仏ヶ原避難小屋。雨が一旦落ち着いたところで山頂の小屋を出発、同行者は雨具を着て私は一先ずそのまま歩き始めます。
山頂から避難小屋までの道中は、濡れた岩やぬかるみの急な降り、荒れ気味の登山道、再びの雷雨、涸れ沢に入り込みルートロス等で殆ど写真は撮りませんでした…
月山から肘折温泉へ向かう登山道は、マイナールートということもあり草木が生い茂っている箇所が多い。前述のルートロスでは、回帰するために藪漕ぎもした。
そんな時はより一層、DCHの強靭な生地はガシガシ藪を進んでも安心感があるし、サイドストラップやメッシュポケットのないDaybreakは枝等に引っ掛かることがなくてストレスフリーでした。
リスクマネジメントとして、装備を見極めた上での軽量化も大切ですが。"引っかかりやすい外付けはしない"、"身体から著しくはみ出させない"コンパクトなパッキングも同じくらい重要だと、改めて感じました。
清川までの急な降りから念仏ヶ原へのキツイ登り返しを終えたら、避難小屋はすぐそこです。雨もすっかり止んで爽やかな湿原の風に服もどんどん乾いていく。
濡れた木道を慎重に進み、本日の宿泊地に到着しました。水場もあり、広く快適な避難小屋。携帯の電波は入りませんでしたが、備え付けのラジオで天気予報を確認したり、濡れた物を干したりして過ごしました。
〈3日目〉
3日目は朝から天気が良く、景色を堪能。このルート上では2日間とも一切人とすれ違うことなく、静かな山歩きとなりました。
段々と街が見え始め、いよいよゴールの肘折温泉が近づいてきました。今夜は温泉旅館。雨で濡れた不快な足元や汗ばんだ身体を綺麗さっぱり洗い流して布団でゆっくり眠る…そんなことを考えると浮き立ってしまい早足になりますが、崩落地のトラバースやぬかるんだ場所があるので、慎重に足を進めます。
雨の後の森は、生命感に溢れている。
足元には様々な菌類が顔を出し、秋の訪れを感じさせてくれます。
色鮮やかなニカワホウキタケに、仏様の螺髪の様な見た目をしたシャカシメジ。きのこ好きの私にとって出会いたかった種の一つ。惰性になりがちな下山途中で思わずテンションが上がります。
そして月山の肘折口に到着。
登山道が終わり、ここからは砂利道の林道を1時間程歩きます。
…鶴岡駅から歩き始め、ついに肘折温泉に辿り着きました。
六十里越街道と雨の月山越えは歩き応えがあったし、流れ着く先が温泉街というのも、ゴール&旅感があって感慨深い瞬間。
肘折に着いた私たちは、吸い込まれるように共同浴場へ。
上ノ湯は肘折温泉発祥の湯。貸切状態の広い湯船で身体をほぐし、心ゆくまで温泉を堪能。Daybreakのサイズは、脱衣所のロッカーにすっぽり収まりました。床に直置きすると邪魔になってしまうことがあるので、こんな時もそのコンパクトさの恩恵を感じます。
旅館では再び温泉を楽しみ、美味しい食事とお酒にすっかり満たされ、泥のように眠った。
翌朝、3日分の食料を消費し空いたザックのスペースに、温泉街の朝市で購入したお土産を詰め込んで、肘折の地を後にしました・・・
山形の旅はこれにておしまい。
〈あとがき〉
今回は鶴岡駅から肘折温泉まで、六十里越街道と月山を歩き繋げました。総移動距離67㎞、標高差1965m、累積標高差登り3730mのトレイル。
軽量化を意識してるとはいえ、2泊3日で山を歩く装備を詰めているので、水と食料MAXの状態で7kg程でした。しかし、Daybreakは同社の大型ザックと同じ幅と厚みのショルダーベルトが搭載されているのもあり、背負い心地は非常に良かった。コンパクトな分、重心バランスが良くて安定感も高かったです。
背中の蒸れは人によって気になるかもしれませんが、ここはHMGをはじめ多くのULザック共通の課題。メッシュパッドと違い保水しないので、汗臭くなり難く汚れもすぐに拭き取れるメリットがあり、私は寧ろ好印象。
バンジーコードは長めに付けられていて、行動食やシェルを外付けすれば更なる容量の拡張になります。
今回は使用しませんでしたが、HMGの【ROLL–TOP STUFF SACKS】はロールトップで防水性が高く、バックルが引っ掛かり脱落し難いので、安心して外付けすることができます。
背面パッドと張りのある生地のおかげで型崩れし難いし、パネルローディングも相俟ってパッキングにシビアになる必要もない。程々に軽く防水性があり、様々なシチュエーションに馴染むデザインと、色々なアクティビティに使える汎用性の高さは、シームレスに使用できる万人におすすめなザックでした。
これからも使い倒していきますので、使用感はお気軽にお尋ねください。店頭では実際にウェイトを入れての背負い比べもできますよ。
ここまでご覧いただきありがとうございました。 坂本
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