BAMBOO SHOOTS MOUNTAIN JOURNEY vol.32
甲斐、FUJI ROCKを蹴って山へ。
三俣山荘での道直し滞在記(前編)
20年通い続けたFUJI ROCK当日、甲斐は新穂高登山口にいました。ここから三俣山荘へ向かうのです。
「え? 甲斐さんFUJI ROCK来ないの? 三俣って、どこ!?」
界隈がざわつきました。
甲斐がなぜ、大好きなFUJI ROCKを蹴ってまで、北アルプス最奥にある三俣山荘へ行くことにしたのか。
きっかけは、会社の後輩である富田と黒田が足繁く通っていたことでした。
「なんか休みが取れたらしょっちゅう行ってるんですよ。ただ行くだけじゃなくて、道直しのお手伝いもさせてもらってるらしく、これはお礼を兼ねて一度自分も手伝ってみたいなと」
行程としては、新穂高登山口から入って、双六小屋で1泊。その後、三俣山荘に入って、滞在しながら道直しのお手伝いをします。

そして、今回は、最近仲良しのLOGの笈川さんも一緒です。
「アウトドアに関するギアをずっと取り扱ってきてますし、自分自身も登山を愛する身としては、ぜひお手伝いさせていただきたいなと思いました」と、意気込み十分です。
鏡平を越えたあたりから雨が激しくなり、雷も鳴り始めます。風雨に耐えながら歩くこと2時間。今日の目的地である双六小屋に到着。

翌日は、相変わらずのガスガスですが、ここから三俣山荘までは約2時間。ただ、双六小屋周辺はお花がまっさかり。とくにコバイケイソウが咲き乱れています。先月行った尾瀬以来、すっかりお花に興味が出た様子の2人。先ほどから新しい花を見付けるたびに撮影会です。
一縷の望みから、三俣蓮華の山頂を踏むルートにしましたが、まあ、なにも見えません。いそいそと三俣山荘へと下りていくと、小屋の直前でパーッとガスが晴れました。赤い屋根の可愛い小屋が、目指す三俣山荘です。

「お疲れ様で〜す! お待ちしてましたよ〜」
テラスで、まるで妖精のような女性スタッフたちが手を振ってくれているじゃありませんか。これまで数々の山小屋を訪れましたが、こんな歓迎は初めてです。

小屋について、三俣山荘の代表である伊藤敦子さんにご挨拶し、お土産を渡します。奥地の小屋なので、甘い物が喜ばれるだろうということで、缶入りのクッキー。高島屋の紙袋も濡れないように大事に持ってきてます。甲斐って、こういう気遣い、意外とできるんですよね。

「なんか働いてる人みんな楽しそうですねえ」と、目を離した隙に駆け込みビールをやりながら、甲斐が嬉しそうに言います。
たしかに、スタッフ皆さん、明るく元気で逞しい。なんだかジブリの世界の迷い込んだような……。
「そしてみんな可愛い!」と甲斐。
笈川さんはと言えば「あの子とさっきから目が合うんですけど……」などとのたまっています。いや、笈川さん、それ、ないです。スタッフとして心配りが行き届いてるだけですから。
今回の目的は、甲斐の眼福でも、笈川さんの遅すぎる思春期でもありません。
そう、道直しです。

雲ノ平へ行っていた富田、黒田も合流し、三俣山荘の道直しを担当している石川さんからオリエンテーションを受けます。いきなりフィールドに出るのではなく、まずはしっかりと道直しについて学ぶのです。石川さんは、道直しの行為そのものよりも、正しく知ることがまずは大切だと言います。

甲斐は事前に三俣山荘が発行している道直しについての冊子「風景と道直し」を予習してきたようです。こちら、オンラインでも購入できるので道直しに興味がある方は……、いや、すべての登山者におすすめしたい1冊です。

オリエンテーションは、そもそも登山道とはなにか、というところからスタートします。
「今日皆さんが歩いてきた道ですが、人が歩いていなかった時のことを想像してみてください。そこは草原だったはずです。たくさんの人が歩くインパクトによって、じょじょに道が付き、そこを水が流れることで土が失われていき、植生も後退していく。それを繰り返すことで、どんどん傷口が深く、広くなってしまっている、というのがこのあたりの登山道の現状です」と石川さん。
人が歩くことで、どんどん道が荒れていくという事実に甲斐も少なからずショックを受けています。ではなにができるのか?
登山者目線でできることは、まずはローインパクトハイキングという部分。

甲斐:実は登山道整備には昔から興味はあったんですが、知る機会がいままでなくて。例えばストック問題。僕はストックは基本使わないんですが、事前に道直しの冊子を読んだらストックのことが書いてあって。それで竹のストックというか棒を使って歩いてみたら、やっぱりとっさに突いちゃうんです。
石川さん:でも、甲斐さんの竹の棒みたいにシングルだったら登山道の荒廃は起こしにくいんです。それがダブルストックになると、登山道脇を削ってしまう大きな原因になる。
甲斐:先端が尖っていないというのも大事なんですよね? キャップを付けるだけでだいぶ違う。ということは、このバンブースティックをバンブーシュートで商品化する、というのも僕らができるアプローチのひとつかもしれません。
石川さん:それ、面白いです。理想はストックなしで歩いて欲しいですが、安全性もあるでしょうから駄目とは言えない。だったらせめて自然にインパクトのないものをどう使ってもらうか、というのは大切な課題です。ただ口で伝えるだけではなかなか浸透しないことも、魅力的な商品を「使ってみたい」と思ってもらったほうが近道かもしれませんしね。

甲斐:登山していると、ストックのキャップってよく落ちてるんですよ。今日も2つ拾いました。そういう落ちてるキャップをグラフィックにしたTシャツとかバンダナなんかを作っても面白そうですね。あと、たとえば、植生回復中の看板なんかをアレンジしてプリントTシャツにするとか。
石川さん:良いですね。我々だけでやっていると、どうしても教育的な感じになってしまうので、外の人のそういう変化球的アプローチが必要だと思ってます。
笈川さん:いち登山者としては、やはりストックをできるだけ使わない、使うとしてもキャップは必ず付けるということは徹底したいと思いました。たぶん、キャップを付けていない人って、悪気があるわけではなく、知らないだけだと思うんです。だから、今後山仲間にどんどん伝えていきたいですね。
知ることが大切、と石川さんは言います。たしかに、なにかを改善するとしたら、問題をみんなが認識することこそが第一なのです。
そして、それをどう発信していくか。
甲斐の周りにいる人間もターゲットです。知り合いにはファッション業界で影響力が強い人もいますから、他ジャンルにアプローチできる貴重な存在になり得るはずです。なにせ甲斐自身が道直し初体験にすでに感動しているのですから。
オリエンテーションの後はゆっくりと小屋で過ごします。実は甲斐にとっては初めての小屋滞在。
「スタッフの皆さんの言葉遣いとか、対応とか本当に素晴らしいですね。接客の鏡。うちのスタッフも派遣して勉強させてもらったほうが良いかも(笑)」と、いたく三俣山荘を気に入った様子。でも、この小屋けっこう特別ですよ?
「やっぱり敦子さんの存在が大きいんでしょうね。上がしっかりしてるから、みんな付いてきている感じ。見習わないと……」
この日の夕食がまたすごい。三俣山荘名物のジビエシチューです。これは北アルプスでも増えて来た、鹿による高山植物の食害を受けてのもの。訪れる人にそういったことに少しでも関心を持ってもらおうという意図もあります。ほかにも、おつまみとして鹿サラミなども販売していて、道直しもそうですが、山の景色をどう守って行くか、に真剣に取り組んでいる小屋です。
翌日からはいよいよフィールドにでます。道直しを通じて、甲斐がなにを感じ、どう行動していくのか。そして下山は有名な伊藤新道を下るというスペシャルなオマケ付き。
Text/Takashi Sakurai