BAMBOO SHOOTS MOUNTAIN JOURNEY vol.7

山の服サンプルを見てもらいに土屋さんのいるハイカーズデポへ(前編)

約半年かけて試行錯誤を繰り返してきた、山の服のサンプルがついに完成。さっそくバックパックに詰め込んで、向かった先は東京・三鷹。ULの名店ハイカーズデポの土屋智哉さんにぜひご意見を、ということでお邪魔させていただきました。前編の今回はシャツとインナーについて。甲斐、珍しく少し緊張しております。

  

 

 

まずは「SHORT SLEEVE OPEN COLLAR SHIRT」から……

 

甲斐:古着で見られるような過去の名ディティールを復活させた服は、僕が服作りを始めた当初からのコンセプトだったりするんですが、今回のアイテムたちは、山で使えるという要素も大事にして作ってみたんです。で、誰に真っ先に見て欲しいかなと思ったときに、やっぱり土屋さんでしょ、と。そういうわけで今回はお邪魔させていただきました。

 

土屋智哉(以下、土屋。本文中敬称略):店頭などからなくなってしまったものの中で、いまリバイバルさせたほうが面白いんじゃないか、というものが甲斐さんの中にはあるわけですよね。それはまったく同意です。うちが開発協力しているトレイルバムのバックパックも、ゴーライトの初期のものから着想を得てます。マーケットに出てきたULザックのオリジンだから、あれがいま無くなっているのは問題だよね、という思い。当時は(日本では)あまり受け入れられなかったかもしれないけど、いまだったら? バンブーシュート・マウンテンジャーニーを読ませてもらったときに、甲斐さんはファッションの文脈でそういうことをしたいのかな? と思ったんです。

 

 

甲斐:まさに。まずこの「SHORT SLEEVE OPEN COLLAR SHIRT」なんですが、山の服を作るにあたって、最初にアイデアが生まれたアイテムです。前提として僕自身がシャツを着て登るスタイルが好きなんですよ。

 

土屋:昔あったロイヤル・ロビンスのとか?

 

甲斐:そうそう。そのあたりから始まって、マウンテンハードウェアのキャニオンシャツとかも好きで。Tシャツ1枚じゃなくて、その上にシャツを着て歩きたくて。

 

土屋:2008年にジョン・ミューア・トレイルを歩いたときも、40代より上はシャツを着て歩いている人多かったですね。それが当時若かった自分から見るとやけに格好良くみえた記憶があります。で、いま改めてシャツというものを見直してみると、襟があるから首の日焼けを防げたり、フロントボタンの開閉で温度調整が容易だったり、機能的なんですよね。サイズを変えればシャツジャケットみたいに着られるし、実は万能なんです。それもあって、ここ5年くらいの間で、アメリカの若いハイカーもシャツを着るようになってきてます。うちでもパタゴニアのハイキングシャツはずっと取り扱ってますしね。

 

 

甲斐:(脇の下を指して)ちょっとここ見てください。

 

土屋:パタゴニアも採用していたYジョイントスリーブですね。腕が上げやすいと。

 

甲斐:さすが。これってもとを辿っていくとハンティングアイテムのディティールなんですよね。あと、工夫した点としては袖部分の後ろ側にベンチレーションを入れてるんですよ。

 

土屋:おー、面白いですね。これは元ネタあるんですか?

 

甲斐:ないです。シャツって通気という意味ではかなり優秀だと思うんです。フロントを開けてしまえば、だいたいの所に風が通る。通気しにくいのは唯一、袖くらいかなと。

 

土屋:背中にフラップつけてメッシュ入れるとかはあったけど、袖の後ろはたしかに盲点でしたね。斬新。

  

  

甲斐:あとはバックパックを背負う前提だから、背中部分は一枚にしたかった。

 

土屋:継ぎは入れたくなかったと。

 

甲斐:これって、60年代の軍モノのシャンブレーシャツの作りなんです。

 

土屋:甲斐さんシャンブレーシャツ好きですもんね。生地のゴワゴワ感も狙いがあって?

 

甲斐:細かいリップストップが入ってるんですけど、乾きやすいし、見た目に頑丈そうじゃないですか。せっかく機能素材使うならコットンシャツとはちょっと違った手触りにしたかったというのはありました。アメリカっぽい味というか、軍モノっぽさもありますし。

 

土屋:それこそロングトレイルとかをガシガシ歩く側からしちゃうと、ちょっとゴツい生地だなあと思っちゃったりもするんですが、たぶん甲斐さんが狙ってるところは、服が好きな子たちが普段のスタイルと変えないで、日帰りとかで山に行く感じなんでしょうね。もちろん普段着としても着られるだろうし、このシャツはバンブーシュートが提案する価値がありますね。無理してコアなハイキング畑にすり寄る必要もないですし。

 

甲斐:シルエットはゆったりめにしてます。個人的な意見なんですが、ピタッとしたものって体が出来上がってないとちょっと格好悪いんですよ。だから、体のラインを上手に隠してあげられるというのも、服としての綺麗な形の条件のひとつなんじゃないかと思ってるんですよね。

 

土屋:なるほどね。体のシルエットじゃなくて、服のシルエットを見て欲しいと。

 

甲斐:そもそも、そうじゃなかったら服を着る意味ってあんまなさそうだな、とか(笑)

 

土屋:マッチョな人ってすぐ脱ぎたがるもんね(笑)

 

 

(おもむろに羽織る土屋さん)

 

甲斐:似合いますね。中に着てるフードの感じもあって、スケーターみたい。でも、このシャツもこれで終わりじゃなくて、いろんな人の意見とかを聞きつつアップデートしていきたいんです。袖がジップオフできるロングスリーブとかも良いなとかいろんなアイデアはあるんですけどね。

 

土屋:いまみたいにメリノウールのカットソーの上に着るのもありですね。でも、袖のベンチレーションはちょっと予想を超えてきましたよ。このギミックがどのくらい効果的かは着ていかないとわからないですが、すごく独自性あります。

 

 

メリノのベースボールTシャツどうでしょう?

 

甲斐:今日は持って来られなかったんですが、メリノウールのインナーも作ってみたんですよ。

 

(資料に目を通して)

 

土屋:これ、欲しいな……。

 

甲斐:メリノウールでベースボールTシャツを作ってみたんです。

 

土屋:ノースリーブはうちの樋口(ハイカーズデポスタッフ)とか好きそう。僕はやっぱりラグランだなあ。

 

甲斐:メリノウールとクールマックスの混紡です。前にメリノ100%で作った服もあるんですが、やっぱりちょっと傷みが早いんですよね。

 

土屋:着心地は100%のほうが良いのは間違いないんだけど、フィールドで使うとなると、混紡のほうが良いのかなあという気はしています。僕みたいにガシガシ使っちゃうと、23シーズンで穴が空いちゃうこともあるので。だからこのぐらいの混紡、好きですよ。

 

 

後編ではいよいよパンツの話に突入していきます。果たして土屋さんの反応は……?

 

 

 

櫻井 卓 Takashi Sakurai
ライター。「TRANSIT」「Coyote」などの旅雑誌のほか「PEAKS」など山の雑誌でも執筆。国内外の国立公園巡りをライフワークとし、これまで訪れた海外の国立公園はヨセミテ、レッドウッド(カリフォルニア)、デナリ(アラスカ)、アーチーズ(ユタ)、グランドキャニオン(アリゾナ)、ビッグベンド(テキサス)
サガルマータ(ネパール)、エイベルタズマン(ニュージーランド)など。とくにヨセミテ近辺は、何度も訪れている。
www.subsakurai.com

木本日菜乃 Hinano Kimoto
写真家。株式会社アマナを経て2020年に独立。現在はフリーランスの写真家として「TRANSIT」「FRaU」「BRUTUS」などの雑誌のほか、GOLDWINと環境省の
WEBサイト「NATIONAL PARKS OF JAPAN」にて、日本の国立公園の撮影も担当。新宿御苑などでの写真展も開催している。
www.hinanokimoto.com